展示紹介インタビュー:4回目「逃げる熱を追え~摩擦とディスクブレーキ~」

4回目は「逃げる熱を追え」を担当された
大学院工学研究科 機械工学専攻の本田 知己先生にお話をお聞きしました。

―本日はよろしくおねがいします。
 よろしくお願いします。

―早速ですが、研究の道に進んだ理由を教えてください。
 そうですね、学部生時代は体育会系硬式テニス部のサークルがメインの生活でした。サークルの合間に勉強していた感じでしょうか。
 まず、研究を選んだきっかけです。4年生になると、卒業研究のためにいくつかの研究室の中から1つ選んで所属します。その中で私はどちらかというと材料や加工系の研究室を選びました。この時に研究室を選んだ決め手は先生でした。先生が魅力的だったのでその先生の研究室で勉強したいと思ったからです。更に研究を続けたいと思ったのは修士2年で、他の研究をみたり、学会での他の大学の先生方の発表を聞いたりしているうちに、もう少し自分でやれるところまで研究してみたくなったからと、研究の内容に将来性を感じて、もう少し続けたいと思ったからです。研究を続ける面では企業へ行くことも考えましたが、研究室の先生から「研究室に残らないか」との誘いを受け、大学で研究を続ける道を選びました。その後、どうせ大学に残るのだったら博士課程に進んで学位を取ろうと思い、博士課程へ進学しました。ですから、最初から大学に残って研究をしたいと思って勉強していたわけでもないですし、勉強一筋だったわけでもありません。ましてや研究を進めていきたいと思うようになったのは修士2年になってからの話ですから・・・、全ては先生の一言で大学に残った感じがありますね。でも、今では本当にありがたかったと感謝しています。

―研究室の先生との出会いに大きな影響があったのですね。
 そうですね。やはり研究室の先生の出会いに尽きると思います。当時は研究の道に進むこともいいかなと思っていましたが、よくよく後で振り返ってみると、その時のタイミングで先生に出会ったことで今の自分がいるのだろうな、と思います。
 私の場合、博士課程は岩手大から東北大に編入しましたが、実はそこでもともと行く予定のなかった研究室に入ったことも大きな転機でした。もともと、共同で研究をしていた研究室へ行く予定でした。ある日、東北大に行った際に(岩手大で)指導を受けた先生の出身研究室へ挨拶に行ったのですが、そこでその研究室の教授、後に私の指導教員となる先生と出会い、なぜか面接を受けることになったのです。3時間ぐらい面接して「じゃあうちの研究室へ来たらどうですか」ということになってしまって・・・(笑)。結局、予定を変更してその研究室に入り、当初入ろうとしていた研究室へは行きませんでした。
 ところが、入った研究室では、これまで進めてきた研究テーマを止めて全く違うことを始めることになってしまいましたので、一からのスタートになりました。それもあって、人よりも1年多く在籍することになりました(笑)。その研究室では、外国の方ともたくさん交流があったので、研究室には常に海外の人が出入りしていました。その中の一人で先生のところへ研究に来たアメリカのある先生に出会いました。そのときは想像もしませんでしたが、その後、福井大に赴任して数年後、在外研究(海外の大学へ短期留学し、専門分野の知識を深め、研究を進める制度)が決まり、学生時代に出会ったその先生の所へ留学することになりました。今思えばすべてが出会いで進んでいるようで、自分でもすごく不思議です。

―現在先生がされている研究を教えてください。
 良く聞かれるのですよ。うーん、難しいです。よく所属は?と聞かれるので「機械工学専攻」と答えると大体の方はイメージをつかめるのかと思うのですが、われわれの研究分野を説明しようとするとなかなか難しいですね。
 私の研究分野はトライボロジーと言いますが、一般の人にはあまりなじみのない言葉だと思います。トライボロジーというのは、摩擦や摩耗、それに潤滑を扱う学問のことを言います。具体的にというと・・、少し分かりやすいものでお話しましょう。
 車の中の動いている部分でいうと、エンジンのピストンやシリンダがありますが、それらの動いている部分の摩擦抵抗を減らすと結果として燃費が上がる、ということは何となくわかるかと思います。ですから、摩擦抵抗を減らすピストン(リング)やシリンダの材料や表面をどのように設計したほうがいいのか、その答えを出すのが我々の仕事です。逆にタイヤの場合、効率よく滑らずに力を伝えるという点では摩擦があった方が安全ですよね。こんな風にトライボロジーでは、摩擦を減らす側と増やす側、両方の研究が行われています。

―研究は、動くものの摩擦を減らしたり増やしたりするための計算や実験などをして進めるのですか?
 そうですね。たとえば材料からのアプローチとしては、摩擦は接触している二面に働く力ですので、接触する表面をどんな風に作ったらいいかを考えることが、トライボロジーを研究する人間の中で大きなテーマとなります。簡単に言うと、表面をつるつるにするか、ざらざらにするかどちらが良いのか?ということや、またその粗さの形や大きさはどれぐらいが良いのか・・・?具体的にどれくらいかとなると簡単には答えられないのが実情です。我々が今研究しているテーマの1つには、1マイクロ(1000分の1mm)や100ナノ(1万分の1mm)の単位のオーダーで表面の粗さを制御し、機械をうまくコントロールしようとするものもあります。

―ほとんどミクロの世界の研究なのですね。
 そうです。実際に使う装置はナノやマイクロの単位で調べることのできる分析装置を使って研究をしています。例えば原子間力顕微鏡などのナノの大きさが図れる装置や電子顕微鏡といって1マイクロの大きさが見られる装置を使って解析しています。ですから、半分分析屋さんのような研究もしています。
 大きな機械でも実際はマイクロメートルやナノメートルの精度でコントロールされています。先ほどのピストンがうまく動いているのは1~5マイクロメートル程度の油の膜がピストン(リング)の表面とシリンダの表面を離してくれているから材料同士が摩耗しないのです。逆につるつる抵抗なく動いているものも油がないと固体と固体が摩擦して削れてしまいます。
 その油の膜の厚さを計算・制御するのもトライボロジーの役割で、その油の厚さを計算して、油の膜がどれくらいでき、どれくらいの力を支えられるか計算をしています。我々の研究室でも、潤滑の観点から表面設計の研究を進めています。

―一言で摩擦や摩耗と言ってもすごい広がりがあるのですね。
 動いているもの全てのところにトライボロジーの分野が関わっていますので、一言では言い切れませんね。たとえば人工関節を滑らかに動かすための研究をお医者さんと一緒にされている方もいらっしゃいますし。そのように、トライボロジーの研究者にもいろんな分野の人がいます。私は機械系出身ですが、化学系(出身)の人もいます。油を例にあげると、摩擦摩耗を低減するためにどんな化学構造をもった潤滑油を使えばよいのかを研究したり、表面でどんな化学反応を起こさせるべきか研究しているトライボロジストもいます。
 つまり、トライボロジーは材料力学や流体力学のように古典的ながっちりした学問ではなく、材料力学や熱力学、流体力学の他、化学や生物などの分野を含めて、なんでもいろんなものを統合して成り立つ学際的な学問なのです。

―トライボロジーってすごく奥が深いのですね。
 良く言うと多くの知識を統合しなければならない実学に近い分野だといえます。何かだけ特化して知っていてもそれだけはだめで、総合的に知識を組み合わせることが要求されています。そのため、学問としては難しさが残ってスマートではないかもしれません。たとえば、流れの計算のように、大部分が数式により表現でき、シミュレーションのように見える形で示せることはあまり多くありません。よくトライボロジーが難しいといわれるのはそういうところで、いろいろな因子の相互関係と関与割合が複雑であったり、経験が必要とされたりする難しい分野かもしれません。

―今回のサイエンスフェスタでは、どのような展示をされたのですか?
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 運動エネルギーが摩擦エネルギーとして熱に変わって逃げていくことを紹介する展示を行いました。今回は、摩擦により発生した熱による急激な温度上昇の様子を実際に体感してもらえるように、ディスクブレーキをモデル化したデモ装置を用意しました。また、自動車のディスクブレーキとドラムブレーキを展示し、実際に動いているものを摩擦によって止める仕組みについて直感的に理解できるように工夫しました。

―本日はありがとうございました
 ありがとうございました。

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